『メッセージとストーリーのない発表はカスだ!』卒業論文・修士論文 プレゼンテーションの心得

研究室の学生用に用意した資料をここにも掲載しておきます。

PDFをslideshareからダウンロード出来るように公開しました。

 

 

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修論生のみなさま、こんにちは、五味です。

修論(卒業論文修士論文。異なる名称であってもそれに類する研究活動)において、これまでに立派な研究成果が上がっている、という前提で、よりよい研究発表をするための心得を紹介したいと思います。まずは本資料の構造を紹介しましょう。

 

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まず、この資料はそもそもなにか、そしてどのように使うべきか。次は研究報告プレゼンテーション、特に卒修論発表というのが、そのものがどのような場であるか。次はメッセージとストーリー、すなわち報告全体の方針。スライド作成の原則、口頭発表の注意事項、そして最後に、本番の報告にあたっての心構え、です。

 

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前書きではまずこの資料そのものについて。

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本資料の目的はよりよい卒修論プレゼンテーションをしていただくことです。そのために必要な一般的な注意事項を示します。基本的には五味が研究報告プレゼンテーションの際に心がけていることです。必ずしもどんな場合にも通用するとは限りませんし、私の経験してきた学問分野の特徴・慣習にも影響されているだろうと思います。また、他の教員・先輩方には異なる考え方もあるでしょう。

とはいえ、「プレゼンがうまい」と言われている方は、分野を問わず、また、アカデミックかビジネスかを問わず、以下に紹介する事項を守っていることが大変多いようですし、市販されているプレゼンのHow to本を参照してもおおむね同じようなことが示されていますから、それなりの通用性はあるはずだと私は考えています。

では次に本資料の使い方を示しましょう。

 

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まずは発表準備を始めるまえに、この資料全体に目を通してください。スライドを見るだけでもだいたいわかるようにはつくっていますが、ノート欄(ここです)に解説を書いているので、それも読んでもらった方がよいでしょう。

次に発表資料(通常はPPTですね)の最初の案を作成後にもういちど、特に「スライド作成の三原則」の項目をみて、作成した資料を見直すことをおすすめします。

よいスライドが作られていることを確認したら、次は口頭発表の練習前に、特に「口頭発表は一にも二にも反復練習」のセクションをみて、喋り方の注意点を復習しておくとよいと思います。

さて、内容に入る前に、そもそもこの資料そのものについて。

 

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この資料はここで示す各種注意事項のお手本になるように作成しています。だいたいこのような印象になるように作成すれば、すなわち、ここでの注意事項は守れているということですね。

(当然だろうと思うでしょう?そうでもないのです。なぜならこれを使って私が口頭発表をすることは想定していないからです。配布する文書と口頭発表で提示する資料では、目的もあるべき姿も大きく異なります)

なお、ノート欄にはこの資料を使って私が講習をするとしたら、ということを想定して、そのときのセリフを書いています。これは研究報告では口頭発表原稿にあたるものです。プレゼンは喋りと提示する資料の組み合わせで伝えるものですから、どのような資料を提示しているときにどのように話すか、が大事なわけで、その組み合わせにも注意してもらうとより有用だと思います。

さて、それでは内容に入りましょう。

 

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まずは、卒修論のプレゼンとは何か。そして、何でないか。

 

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いちおう断っておきますと、ここでいうプレゼンテーションとは、アカデミック・プレゼンテーション、すなわち研究報告であって、特に卒修論の発表会を想定しています。

 

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修論プレゼンテーションとは、

  • 研究成果を挙げた、という事実を、主として審査員である大学教員に伝えるためのもので、
  • 数分から10数分程度の口頭発表であり、
  • 液晶プロジェクターを利用し前方のスクリーンに映写された資料を示しながら行うものです。

一見自明ですが、最初の点だけはちょっと説明を補足しておきましょう。

 

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学会での研究発表と卒修論プレゼンテーションのいちばんの違いは、その目標です。学会では研究成果を示し、それに興味を持ってもらうことが主な目的になります。それによって自分の研究成果を広め、議論し、実績を認知してもらうわけですね。

ところが。

修論プレゼンにおいての目標は、卒業ないし修了の認定を得ることです。つまり、聞き手である大学教員、すなわち審査員に、「この人の行った研究は卒業(修了)に値する」と思ってもらうこと、です。「研究成果」そのものの伝達はそのための手段にすぎません。

ありとあらゆる発表準備において、聞き手の属性はもっとも重要な情報です。ではこの聞き手はどんな人たちかというと、審査員であり、多くの場合はあなたよりも年長であり、さらに、あなたが報告しようとしている分野について、かなり高い水準の知識を持っています。

自分よりもこの分野のことをよく知っている年長者に向けて、自分がその分野の研究を行い卒業/修了に値する成果を挙げたことを、口頭でもって証明する。これが卒修論プレゼンテーションです。

それでは次に、卒修論プレゼンテーションとは「何ではないか」。

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まず、苦労話を聞かせる場ではありません。

発表する内容は研究として意味のあることであって、作業にあなたがどれだけ苦労したかは本題ではありません。たとえ期間の8割以上を費やした作業があったとしても、その研究の意義と成果を理解するのに重要性が低ければその作業に全く言及しなくてよい、とさえ言えます。(もっとも重要性の低いことに期間の8割を費やしてしまうというのは研究計画とマネジメントに問題があるように思えますが、それはまた別の話)。

また、アニメーションの上映会ではありません。

多くの場合、コンピューターを使って作られたスライドを映写しながら行いますが、美しいスライド、新鮮な動きのアニメーションを鑑賞するための場ではありません。スライドはあくまでも研究の内容や成果を伝える補助として使われるものです。

つぎに、文学作品の朗読会ではありません。

文学作品につかわれるさまざまなテクニックの中には、わざと対象や内容をぼやかしたり、主語や述語をはぶいたり、理由を示さなかったり、重要な事実を隠したりすることがありますが、このような劇的・感動的な効果を得るための技術は卒修論プレゼンテーションには必要ありません。

そして、文書の読書会ではありません。

全員が同じテキストを見つめ、そのうちひとりがそれを読み上げる、というものではありません。発表者が読み上げるテキストを聞き手が読む必要はありません。

最後に、笑いを提供する寄席ではありません。

プレゼンテーションのテクニックとしてちょっとした笑いをとる、ということはよくいいますし、私もときどき使います。そのようにして聴衆の興味をひき、気分を高揚させ、楽しく聞いてもらえるようにするわけですね。確かにプレゼン技術のひとつとは言えますが、それを目的にするべきではありません。笑いがとれなかったからといって落ち込む必要はありませんし、笑いがとれたからよい報告が出来たと思ってはいけません。

 

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もういちど、確認しておきましょう。

修論プレゼンテーションとは、「自分よりもこの分野のことをよく知っている年長者に向けて、自分がその分野の研究を行い卒業/修了に値する成果を挙げたことを、口頭でもって証明する。」という場です。

さて、プレゼンの最終的な目標が分かったところで、具体的な方法にうつっていきましょう。まずはメッセージとストーリー、です。

 

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メッセージとストーリーライン。

これがプレゼンにもっとも大事なものです。

 

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修論プレゼンに限らず、あらゆる発表はメッセージを伝えるためにあります。

そして、そのメッセージを伝えるために、ストーリーを構成し、聞き手を誘導し、最終的に伝えたいメッセージに同意や納得を得ようとします。そして、卒修論プレゼンに関する限り、驚きを聞き手に与えることや、脇道にそれる必要はありません。

メッセージとその見つけ方について少し詳しく説明しましょう。

 

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まず、あなたが最も恐れるべき質問は、「で、何が言いたいの?」です。

これはつまり、結局あなたが何も伝えられなかったということを意味しているからです。いえ、より正確に言えば、「この人は何が言いたいのかわからない発表しかできない人だ」ということを伝えてしまっていますね。

そして、メッセージを明確化するために、200文字以内で要約を書くことを強くおすすめします。なお、もともとメッセージがつまらなく価値のないものであれば、どれだけ発表を工夫したところで仕方がありませんが、卒修論プレゼンの準備までたどり着いたみなさんであれば、その学問分野で新しいことを発見する、これまでにないより良いものを作る、というような意味で、何かしら価値のあることが出来ているでしょう。そのような前提でこの資料はつくられているということをご承知下さい。

要約をつくるにはヒナガタにあてはめて考えると便利です。次にそれをみてみましょう。

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研究報告の場合、その中心的なメッセージにはいくつかのパターンがあります。ここでは私が経験した、あるいは見聞きした範囲で、主な3つのパターンを紹介します。

 

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理学的な要素が強い、あるいはいわゆる基礎研究と言われるものでは、何かしら事実を明らかにすることが目的なので、「~が分かった」で終わるメッセージになるでしょう。

その雛形は、

・調べた対象

・調べた方法

・分かったこと

という3要素からなります。

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一方、まずは「未だ認知されていない何かの問題を発見した」ことがその研究の主たる「売り」である場合、問題設定そのものがメッセージに入ります。

また、問題を発見するだけで解決法を一切提案しない研究というのは、少なくとも私が見聞きした卒修論には見受けられないので、これを「問題発見・解決法提案型」と仮に名づけましょう。

この場合のメッセージは、

・調べた対象

・発見した問題

・開発・提案する解決法

という3つの要素からなります。

 

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次に、問題そのものはそれほど新しいものではなく、何かしらの開発・改良を行った場合。私の周囲で見聞きする卒修論にはこのタイプが多いです。

その場合は、その開発・改良によって何が出来るようになったかが売りですので、

・開発・改良の対象

・開発・改良の方法

・それによって何が出来るようになったのか/どんな問題が解決されたか

という3つの要素からなります。

以上は私の経験から作成したものですので、その経験分野に偏っているであろうとは思います。例えば他に「~は~なので~すべきである」という形のメッセージも見かけることがありますね。こういう「規範的主張型」のものは、私個人の思う「学術研究」のあるべき姿とは違うのですが、事実、そのような主張をメッセージとする「研究」と称するものもありますから、一応ここに付記しておきます。

そして、再びになりますが、自分の言いたいメッセージを明確化するために、これを頭で考えるだけでなく書き出し、200字以内で要約を書くことを強くおすすめします。

 

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私はどのような報告、発表、論文等でも、まずメッセージを抽出した短文を書いてから本体にとりかかります。これが全ての内容のよしあしや必要性を判断するためのモノサシになるからです。

全て日本語であれば、200文字もあれば十分です。英単語なら80語くらいでしょうか。200文字で書けないとき、それはあなたが自分の研究の内容・本質を十分に理解できていないということです。

作業の間は目の前の小問題に没頭してしまい、研究全体として何がしたいのかを往々にして忘れてしまうものですが、発表準備においては少しひいた目で見渡してみましょう。要約を書くことによって枝葉を取り払い、「自分がやったのはどういうことだったのか」を、客観的に位置づけ、評価し、確認することが出来ます。

 

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メッセージを効果的に伝えるための方法が、発表の中に明確なストーリーをつくることです。ストーリーの組み立ての主なポイントは3つ、伝える内容を絞り込むこと、論理的に矛盾がないこと、聞き手が理解しやすい流れであること、です。

まずは絞り込むことから。

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よほど経験を積んだ発表者でなければ、なんとなく卒修論発表の用意をすると、長すぎるプレゼンになるでしょう。時間内に言おうとしたことすべてが言えず、たとえばスライドがまだ3分の1以上残っているのに時間が尽きてしまった、という様子をよく見かけます。

修論プレゼンのみならず学会発表でプロ(のはず)の研究者でもよくみかけます(おいおい)。そもそも、短くても半年、長ければ2年とかをかけて行い、数十ページ分の論文を書いたりしているのですから、それを10分で紹介するためには「やったことを全部いう」のは普通に考えて無理でしょう。

そこで伝える内容を絞りこまなくてはなりません。これには先のメッセージ・要約が重要です。そこからあなたの研究の意義や意味、特徴、何が新しい発見・工夫なのか、といった「売り」を見つけます。

その売りを伝えるために必要なことだけを残し、他のこまごまとしたことはバッサリ刈り落としてしまいましょう。背景、方法、結果の各段階において、「売り」を伝えるために不要と思える項目はじゃんじゃん削ってしまいます。そのためであれば、論文の章をまるまるひとつ省略したって構いません

(もっとも、発表にあたって省略されてしまうような章はそもそも本体に必要だったのだろうか?という疑問も浮かびますが、ここでは論文はもう出来ていてあとは発表だけ、という段階で考えることですから仕方がありません)。

また、ここで削った要素について発表後に質問される可能性が考えられるとき。訊かれたら口頭で答えればいいのですが、資料の提示が必要になりそうならばスライドのうしろに付録として入れておくという手もあります。(私はよくやります。修論発表のときはちょうどその点について、もとの論文を持っていない先生から定量的な回答が必要な質問をされたので助かりました)。

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まず、学術研究の発表においては、ストーリーラインに矛盾があってはいけません。架空の悪い例を挙げてみましょう。

「この研究の目的はAの質量を調べることです。」と宣言しておいて、とった方法が「Bという道具で分解する」こと。もしかしたら分解も必要かもしれませんが、分解しただけでは質量が分からないので「~で質量を計測した」という方法でなければおかしいですね。

そして極めつけが結果で、「速度がCである」ことが分かってしまっています。もちろんここではAの質量を示さなくてはなりません。質量を調べるといったのに結果分かったのが速度であるというのはこれいかに。

さすがにここまで支離滅裂な発表はないだろう、と思うでしょう?それが、そうでもないんです。私が見てきた卒修論発表は、私自身のものも含め(苦笑)、第一案ではこういう水準の齟齬があるのがほとんどです。そもそも目的と結果が対応していない。

もうひとつ悪い例を見てみましょう。

 

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この例はさっきのものよりもちょっと複雑です。

まず、目的は単純です。A国とB国の人口変化の要因の差異を明らかにする、ということは、これらの国々では人口に変化が起きているが、A国とB国ではその要因が違うのではないか?という仮説を検証しようとしているわけです。

このあと予想される展開は、それぞれの国でどのような要因が人口にどのような影響を与えているかを明らかにし、それらを比較して、ほとんど同じ、似ているがこれくらいは違う、まったく異なる、などの結論を得る、ことです。

ところが。

 

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ここではいきなり方法(1) で「婚姻年齢の変化に注目する」と言ってしまっています。人口変化にはいろいろな要因が想像されるにも関わらず、それら要因を調べる前に、主な要因が婚姻年齢の変化であるというのはおかしい。

次に収集するデータについて。(1)で婚姻年齢に注目するというのを前提にするなら、所得データはどうして必要なのか?あるいは(1)で婚姻年齢に注目するというのがおかしい、と断じるとして、それでは人口以外のデータは婚姻と所得だけでいいのか?他にも、医療、都市化、移民、災害、戦争、教育期間、雇用機会など、様々な要因がありえます。(というようなことが、あなたの卒修論を審査する大学教員は直ちに思いつきます)

この研究の目的は「何が要因であるかを調べる」を要求するので、他の要因候補をはなから無視するというのは、論理的におかしい。方法(3)も同じです。(1)を前提にするなら所得の話はおかしいし、目的を前提にするなら婚姻と所得だけ、というのはおかしい。

最後は結果。これも散々ですね(笑) 人口変化要因を調べたはずなのに、人口に対する影響が述べられていません。仮に婚姻と所得が人口に影響しているとしても、それが両国でそれぞれどのように人口に影響しているのか?が、ここで述べられなければいけません。

これではひどすぎるので、ちょっと直してみましょう。

 

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と、このように直せば、少なくともこのストーリーラインの内部的には、明らかな矛盾点はないはずです。

  • 目的にかなう方法をとっていること。
  • 方法の各段階が論理的にも技術的にも正しくつながっていること。
  • 目的に対応する結果が示されていること。

これがストーリーラインの最低条件です。

しかし、論理的に正しければそれでよいか、というとそうではありません。仮に論理的に正しかったとしても、聞き手が理解しやすい流れである必要があります。そのおおまかな原則を次に考えましょう。

 

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まず、原則として「全体から詳細へ」、という構造をつくること。これはすぐあとで述べます。

次に、原因と結果は近づける、つまり、何かの原因を述べたらそのすぐあとに結果を述べる。なお、原因と結果の順序は逆になってもたいていは問題ありません。結論を述べてからそうなった詳しい理由を示す、という流れは学術研究の報告において広く採用されています。たとえば典型的な学術論文では冒頭に要約がおかれ、要約には当然ですが結果が示されています。そのあとの本文でそのような結果に至った理由を延々と書いているわけですね。

最後に、今どこにいるかを何度も示すこと。これは節目節目で目次を呼び出すなどして、発表全体の構成のなかで今聞いていることがどの段階にあたるのかを、聞き手が常に把握できるようにするための技術です。この資料の中でも章が切り替わるごとに目次を呼び出しています。

ところでひとつめの全体から詳細へ、の構造化には少々頭を使うことが必要です。まずは大きなくくりでまとめ、次にそれをひとつずつ小さく、具体的な内容にくだいていく。論文で言えば章→節→項→段落、のような構造ですね。そのときに必要な内容はモレなく網羅し、かつ、重なりがないこと。(これを英単語の頭文字をとってMECEというそうです。何の略かは調べてみましょう)

具体例でここでいう「構造化」の例をみてみましょう。

 

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料理のレシピで説明しましょう。

(こういう料理があるかどうか分かりませんが 笑)

このレシピをいちから順番に読み上げられると、聞き手はこれから何をつくろうとしているか、完成したらどうなるのか分かりません。そのため、ひとつひとつの手順が何のためにあるのか、このあと何につながるのか、最後までいかないとわからないようになっています。また、実はモレがあり、重複もあります。

これを改善してみましょう。

 

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直しました。先ほどとの違いは明確でしょう。

まずタイトルがつきました。これによって何をつくろうとしているかが分かります。

次に全体を3段階に分け、手順をそれぞれについてまとめました。これによって作業全体の段取りが、クレープを焼く→ホイップクリームを作る→仕上げる、であるということが分かり、作業がイメージしやすくなります。

同時に個別の手順が何を目標にして行われているかわかるようになりました。たとえば秤と粉を用意するのはクレープを焼くためだと一目で分かります。 先の悪い例ではそれさえわかりませんでした。

さらに、悪い例のなかにあったモレと重複が直されています。どう変わったか探してみてください。

 

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重要なことは3つ、

・もれがなく全ての内容が含まれていること

・内容に重複がないこと

・ひとつのレベルの項目数が多過ぎないこと

です。

特にビジネスの構造化やプレゼンテーション技法では、ひとつのレベルの項目は3つまでにせよ、といわれます。「~は~です。理由は三つあります」という定型句があるくらいです。

いくつになるかは、本質的には取り組んでいる対象によって規定されるものですが、構造化するのは理解を容易にするためですから、同じレベルの項目数が多過ぎると把握が困難になるのは確かでしょう。プレゼンテーションにおいても概ね3つにするのが聞き手の負担が少なくてよいと思います。

さて、ストーリーライン、次のポイントは「次が想像できる」ことです。

 

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あなたがA国とB国の話をしているとします。

まずA国の話をしました。A国の話が終わりました。当然、聞き手は次はB国の話であろうと想像します。ここで、期待通りにB国の話が始まるのがよいストーリーラインです。

A国の話が終わった後に、B国の話へ移らず、方法論の議論を始める、というのはよくありません。聞き手の頭の中の流れが途切れ、ストーリーがつかみづらくなります。

また、あるセクションが終わりそうにして、そこで終わるのがよいです。方法が3段階あり、最初に目次でその3段階を見せたとしたら、3つめでそのセクションを終わりましょう。そこで終わりだとわかるようにしましょう。口頭で「次が最後です」などといって3つめを始めるとよいですね。

私が聞き手としていちばんめんくらったのは、方法の説明がまだ残っているように思っていたのに、結論に進んだ時でした。それは方法の全体像が頭に入っていなかったことと、方法の各段階の説明でそれが全体の中のどの位置にあるかを、その都度示されていなかったため、であったようだと考えています。

 

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最後は補足的な事項です。

研究報告はミステリーではないので、聴衆に驚きを与える必要はありません。

また、優れた話し手は多少の脱線をすることで聞き手にいわば「はしやすめ」を与えることがありますが、卒修論プレゼンでそこまでする暇や精神的余裕は普通はありませんから、寄り道はしないほうがよいでしょう。もちろん話し手としての技術に自信があるというなら止めはしませんけどね。

最後、苦労話。ストーリーラインをつくるときには最初に示したように絞り込みが必要です。「~が大変だった」「~が苦労した」というのは小学校の自由研究ならいざ知らず、れっきとした学術研究である卒修論のプレゼンテーションにおいては、聞き手が聞きたいことではありません。自分が時間をかけて取り組んだ作業について詳しく紹介したくなる気持ちは大いに理解しますが、それがメッセージからみて重要さが低ければ思い切ってストーリーラインから削ってしまうべきです。

さて、メッセージとストーリー、最後にもう一度大事なことを確認しておきましょう。

 

 

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メッセージとストーリーのまとめです。

とにもかくにも、メッセージを明文化すること。しかも短く明文化すること。これが発表準備の指針であり、また発表を自分で評価するための基準になります。そのための道具としてここでは雛形をいくつか紹介しました。また、研究の肝を見出すために要約を作成すると役に立ちます。

そして、メッセージを伝えるためのストーリーを練ること。

各パーツは論理的に正しく接続されなければなりません。そして、聞き手がのりやすい流れにはいくつかの決まりがあります。その典型が、「全体から詳細へ」です。そして期待通りに展開すること。これから何を言うかを予告し、全体の中でいま報告している部分の位置づけを示すこと。

以上を参考にして、伝えたいことが伝わるストーリーを組んでください。そして発表準備の全ての段階で何度も確認し、強く意識して下さい。

 

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さて、スライド作成です。

「プレゼンの準備」イコール「スライドの作成」だと思っている人も多いようですが、もちろんそれは間違いです。卒修論プレゼンはスライドの鑑賞会ではありませんし、アニメーションの上映会でもありません。いかに美しいスライドを作成しても、メッセージがそもそもなかったり、口頭で的確な説明を出来なければ卒修論プレゼンとしては失格です。

(あなたが芸術分野の学生・院生であれば話は違うのかもしれませんが、私はそのような分野の事情を知らないので保留とします)

とはいえもちろんスライドは重要です。卒修論プレゼンの目標、すなわち卒業/修了認定を得るために、研究成果を挙げたという事実を大学教員に認めさせるための、スライドの作り方について原則を述べましょう。

 

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あなたが絶対に守るべき、スライド作成の三原則はこれです。

ひとつずついきましょう。

 

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まず、「全てのスライドにメッセージをのせる」こと。

より正確に言うと、「全てのスライドに対して、1枚のスライドにひとつのメッセージをのせる」ことです。Every page should have a message.

発表においてもっとも大事なものはメッセージである、と先に述べました。そこでとりあげたのは発表全体のメッセージでしたが、各スライドも、そのメッセージを伝えるためのストーリーラインにそって、1枚ずつが明確なメッセージを持つべきです。

そのメッセージを伝えることが、スライドの役割。そうでなければ「その1枚を表示しているときにこのひとは何を言いたいのか」が分からず、ストーリーラインを聞き手が感じることが出来ません。ですから、伝えるべきメッセージ、すなわち役割を決めること、これが第一です。

そのメッセージを明確に示し、伝えるためにその1枚のスライドをつくりこんでいくわけですが、そこでまず気を付けるべきなのがタイトルのつけ方。

そして、メッセージをスライド内でどう表現するか、です。

 

 

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では役割の決め方からいきましょう。

もしもすでにメッセージとストーリーが明確になっており、全体から詳細への構造化されていれば、各スライドの役割は自ずと決まります。

構造化の方法については、「2.メッセージとストーリーのない発表はカスだ」 の「全体から詳細へ。構造化の原則」を参照してください。

典型的には、背景、目的、方法、結果、考察などからなるでしょうから、それぞれの中身を大きく分け、さらにそれを分け、スライド一枚分の量にちょうどいいレベルにまで細分化します。これで各スライドのメッセージ、役割が自動的に決まります。

そうすると、スライドタイトルもだいたい決まるわけですが、タイトルの技術を次に見ましょう。

 

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タイトルとは大雑把に分けてメッセージ・タイトルと項目名タイトルがあります。

メッセージ・タイトルとはその名のとおり、そのタイトルそのものがそのスライドで「伝えたいこと」になっているもの。たいていは述語のある短い文の形をとります。「~は~だった」「~はまだわかっていない」「~を調べる必要がある」「~問題が解決された」などです。

一方で項目名タイトルとは名詞要素であり、物事の名称だけを示すものです。例えば「インドの人口」は項目名タイトル、「インドの人口増加率は驚異的である」はメッセージ・タイトルです。

新しいスライドをだしたとき、より強いインパクトがあり、一目で何が言いたいかわかるのはメッセージ・タイトルのほうですね。どちらかといえばメッセージタイルのほうを私は推します。

もっとも、項目名タイトルであっても内容をきちんと伝えられたら、あるいはスライドが一目でメッセージが伝わるように作られていれば、別に問題はありません。ただし項目名タイトルの場合には短くしておいたほうが、聞き手の関心がすぐに内容にうつるのでよいと思います。たとえば「インドおよび周辺諸国における1950年から2010年までの成人男性人口の変化」よりも、「南アジア諸国の成人男性人口」のほうがよいでしょう。

この資料のここまでのスライドを見直して、これはメッセージタイトル、これは項目名タイトル、と判別してみましょう。メッセージタイトルの効果がよくわかると思いますよ。

 

 

次に同じ内容でタイトルを変えた例をみてみましょう。

 

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これは項目名タイトルの例です。

アジア主要国というわりには韓国やインドネシアが入っていませんが、プレゼン・スライドの例ということでその点は無視してください。

このグラフからは読み取ることのできる情報はいろいろあります。たとえば「日本の人口成長率が低い」「インドは高い」というのがすぐ見てとれます。他にも「中国の人口成長率は高くはないが人口増加は止まっていない」「タイは比較的高い成長率である」などなど。

ですから、このスライドだけでは、発表者がここで何を言いたいのか一目では分かりません。ここで言いたいメッセージを明示するためにはいくつかの方法がありますが、ここではタイトルだけを変えてみましょう。

 

 

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はい、タイトルだけをメッセージ・タイトルに変えました。

これでこのスライドで言いたいこと、注目してほしいことは「インドが他の国よりも高い」すなわち「インドの人口は(ここに示した)他の国よりも急速に増加している」ということだと分かります。

先の項目名タイトルのスライドでも口頭でそのことを言えば伝わりますが、この場合は、タイトルにも入れておいたほうがより強力でよいでしょう。またメッセージ・タイトルにしておくことで、万が一ここで言いたいことを忘れてしまってもスライドのタイトルを見ればわかる、というメリットもあります。(私はそれで助かったことが何回かあります)

なお、アカデミック・プレゼンテーションの場合、他の研究等を直接的に引用したときには、このようにスライド中に出典を書いておくべきでしょう。

 

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各スライドで言いたいメッセージは、通常、短文で表現できます。

例えば「インドの人口増加率はアジア主要国で最も高い」といったように。これはプレゼンのその段階で伝えたいことなのですから、当然口頭で述べることになります。

ではスライドはとう構成するか。もしもメッセージ・タイトルを利用したときはすでにタイトルにメッセージが入っていますから、同じことをスライド内に文字で書く必要はありません。

しかし、項目名タイトルを使った場合、コンテンツでメッセージを表現する必要があります。無難なのは文字で書いてしまうことで、自信がなければそうしたほうがよいと思います。しかし、図でもメッセージが際立つように工夫することが出来ます。

テキストで書くか、図で示すか。

先ほどの人口増加率のグラフを使って、以下に例をみてみましょう。

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これは項目名タイトルのまま、メッセージを書いたテキストボックスを図の上からはりつけました。このスライドでも一目でメッセージが分かります。

 

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こちらはメッセージ・タイトル+図の中にハイライト。

注目してほしいのはインドがこの中で一番高いことですから、インドだけ色を変えることで視線を集め、「この項目がいちばん注目してほしい項目ですよ」ということを伝えます。

このように注目を集めたい項目だけ色を変える、という方法は多くの場合に有効です。もう一つ例をみてみましょう。

 

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これは一人当たりGDPを高いほうから順に並べたものです。

ここでは日本がどのあたりにいるかを示したいので、日本だけハイライトしてあります。この例では国名の文字が小さくなってしまい若干読みづらいのですが、タイトルに「日本は16位」と書いてあるのでハイライトされているのが日本だと容易に分かります。例えばメッセージが日本と他の特定の国、たとえデンマーク、との比較であれば、デンマークもハイライトすればよいですね。

なお、色による強調表示をするときの注意点として、聞き手の中に色の識別に障害のある人がいるとわかっている場合はその人が判別できる色の組み合わせを利用するか、他の強調方法と組み合わせるなどするべきでしょう。卒修論プレゼンテーションの場合は審査にあたる大学教員はさほど人数がいないのが普通ですので、その情報を得るのはそれほど難しくないだろうと思います。

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グラフの選択はスライドに限らず、印刷物でも基本的には同じなので本資料の目的とは少し異なります。あくまで一般論ですが書いておきましょう。(注:ここに示した例はグラフの形による違いを示すために単純なものを作ったので、実際にスライドに載せるにはいろいろ欠けています)

左上からいきます。

  • 円グラフは構成比を示すのに利用されます。円が全体でそのうちどれだけのシェアを各項目が持っているか。
  • 棒グラフは項目間の比較。この場合は国の間での大きさの比較をしています。(ちなみにこれはGDPです)
  • 折れ線グラフは基本的には各項目の時系列変化を表現するために使われるものです。項目間比較も可能です。(が、3時点程度の比較であれば折れ線よりも棒グラフのほうを私は推します)。
  • 面グラフは時系列変化に加え、複数の項目があり、全項目の合計値の推移を示すのに向いています(面の上端が合計値)。なお、一番下の項目だけはその項目の大きさの推移も見て取れます。項目間比較も一応は可能ですが、きちんと比較したければ折れ線のほうが向いているでしょう。

他にここに載せていないグラフで頻繁にアカデミック・プレゼンテーションで利用されるのは散布図です。散布図は2要素の相関を表現するのに利用されます。一応例を次のページに載せておきますね。

 

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この図は各国の平均寿命を縦軸に、一人当たり年間所得を横軸にとったものです。

平均寿命は2010年、所得は2011年です。所得の増加は健康状況の改善を通して寿命を延ばすことに貢献するのでは?という仮説がありえます。これを調べるためにはまずこのような散布図を書いてみるのが有用でしょう。

この図からは、全体に右上がりになっていますが、1万ドルあたりを境に傾きが小さくなり、ほぼ横ばいになっていることが分かります。1万ドル以下ではかなり急に立ち上がっていることが分かりますね。

そこで、「所得が低いほど、所得の増加は平均寿命の延長に貢献しそうだ」という仮説を立てることが出来ます。(もちろん学術的には統計解析や具体的には所得増加がどのような方法で寿命の延長につながっているのか、などの検討が必要でしょうが、ここではグラフの選択を問題にしているので放置します)。

散布図以外の形式のグラフでこのような関係を表現するのは少々難しいでしょうね。

 

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さて、せっかくなので日本とアメリカをハイライトしてみました。この年、平均寿命は日本が最長だったので一番高いところにあります。一方、アメリカは日本よりも所得が高いですが、平均寿命は数年短いようだということが分かります。

また、この図で興味深いのは図中右下の外れ値です。この国は赤道ギニア。日本以上の一人当たり所得がありながら、寿命は約50歳とほとんど最低グループです。

このことから赤道ギニアには何か特殊な事情がありそうだな、と思うでしょう。あるんです。産油国のため石油の輸出で非常に高いGDPを得ていますが、国民の大部分はその恩恵にあずからず貧困状態にあり、健康状態が悪い。ということから、赤道ギニアをこのような外れ値にしているのは非常に大きな所得格差があるためだ、と想像されます。

(というようにいろいろと興味深い話のきっかけになるので、私はこのグラフ、お気に入りです)

 

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さて、次は情報量。原則はとても単純です。

同じメッセージが伝わる限り、情報量は少なければ少ないほどよい。なぜなら聞き手の認知能力も、あなたの表現能力も限られているからです。1枚のスライドの情報量はメッセージのまとまりを失わないぎりぎりまで減らすこと。その方法は簡単で、内容が増えてしまったと思ったら次のスライドに分ければよい。そして、提示するスライドは論文ではなく、資料集でもありません(もちろん台本でもありません)

順に説明しましょう。

 

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まず、どれだけ沢山の内容があったとしても、ある瞬間にあなたが話すことが出来るのは一点だけです。その一点に聞き手の関心を集中させなければなりません。

もしもスライドにあまりにもたくさんの情報があると、聞き手はスライドの様々な要素の解読に集中し、あなたの話を聞かなくなる可能性があります。5つグラフを順に示すとき、それを1枚に押し込んでも、5枚のスライドに分けても、作業量はほとんど同じで、また話す内容もそれに必要な時間もほとんど同じです。それならば一回に一つのグラフに聞き手が集中できるように、5つに分けたほうが効果的なことが多いでしょう。

また、1枚のスライドに複数のグラフを載せるのもよく見かけます。これが必要なのはそれらを同時に見て比較する必要があるときだけです。しかしその場合にも本当に比較したい要素だけに絞れば1枚のグラフにすることが出来ることもよくあります。

唯一、メッセージという観点で多数の要素、特に図や表を1枚のスライドに載せることが正当化できるのは、そのメッセージが「こんなにたくさんやりました」ということを伝えたいとき、です。その場合は要素ひとつひとつが読み取れる必要はなく、「あー、たくさんやったんだね」と思ってもらえればよい。ほんの短時間だけ表示してさっさとその中のどれかの要素に絞っていく、という方法ですね。

次に例をみてみましょう。

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「これが結果です」といってこちらのスライドを表示されたとしましょう。

これからわかることは、たくさんの折れ線グラフがあってどれもおおむね右上がり傾向である、というくらいですね。これは「情報量多過ぎ」の一例です。このスライドはそれぞれが示す値について何を言いたいのかさっぱり分かりません。しかし、こういうたくさんグラフが出てくるようなことをしたのだな、ということは分かりますね。

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スライド1枚の情報量を減らすにはどうしたらよいかというと、スライドを分ければよいのです。沢山の情報が詰め込まれていても、それらを同時に見る必要がないのであれば、視線と意識が分散して何が言いたいのか分かりづらくなりますから。

私の目安としては4つ以上の情報のかたまりが出来たら二つに分ける、というくらいの基準でやっています。分けられないというのは怠慢です。甘えです。この資料の2.をもういちど読みなさい。

 

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ときどきすごく小さい字の細かい表を載せてくる人がいます。

しかし、聴衆にとって、発表中には詳細な表を読み複雑なグラフを解読する時間はありません。そういうものは論文の本文に載せるべきで、発表資料に載せても読めませんから無価値です。

また、長文を読む時間も当然ありませんから、可能な限り文字数を減らすべきです。

そして肝心なのがこれ。関係ないデータは出さないこと。論文中ではいろいろ枝葉のことも「ちゃんとこういうことも考えた・調べた」ということを示すために書き込むことがよくありますが、発表では定めたストーリーラインから見て不要なことは一切掲出すべきではありません。

 

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・スライドとセリフが同一ならば口頭発表は不要

・スライド読書中は発表者の声は聞こえない

・必然的に小さな文字になってしまう

 

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スライド作成作業でデザイン上指針にすべき一般的な原則です。文字サイズ、色、そして美しさ。

 

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まず、読めないくらい小さい文字は無価値です。カスです。邪魔です。

会場の環境にもよるので一概には言えませんが、おおむね24ptくらいが限界でしょう。ということはなるべく少ない文字数で書かねばなりません。そのためには国語力を最大限に動員して一生懸命推敲し、より簡潔な表現を研究しましょう。

 

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色、これも大事。

当然の原則として、判別しやすく明瞭な色を使うべきです。白地に黄色とか論外ですが、黒字なら黄色でもOK.

また、先述のとおり、聴衆には色の判別にハンディのある人がいるかもしれないことを考え、仮に色が見分けられなくても必要なことが伝わるような工夫をすべきです。特に赤と緑の判別が苦手な人は多いそうですから、重要な内容を把握するのに赤緑の見分けが必須にならないよう気を付けましょう。

同じ要素には同じ色を使い続ける、というのも必須です。例えば日本、中国、アメリカが登場するグラフがいくつかあるとして、各国に別々の色をあてるのなら、もしも日本を赤にするならずっと赤。

それから当然ですが強調したい要素に目立つ色をあてるべきです。本資料の43、44ページの例を参考に。

 

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そしてこれが肝心なところですが、ほとんどの卒修論プレゼンテーションは美術作品ではありませんから、美しさよりも分かることのほうが大事です。

かっこいいデザインには文字を小さくすることがよくあり、確かにおしゃれだなーと私も思いますが、卒修論プレゼンでは無意味です。おとなしく大きな字で書くこと。

よいスライドというのはメッセージが伝わることなのですから、優先順位ははっきりしていますよね。

 

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その他の注意点を列挙しておきました。

  • どんな会場で発表するのかが分かっていれば、文字の大きさなどを決定するのに役立ちます。
  • また、スクリーンの位置が低いと聴衆からスライドの下端が見えないことがあるので気を付けましょう。
  • スライド番号も入れおくと、聴衆(というか、審査の先生方)が突っ込みをいれるときに「ほにゃららページでこう書いてたけど、、、」とすぐに場所を指定できるので便利です。
  • 自分のパソコンを使うときにはあまり問題はないでしょうが、会場に設置されたパソコンにデータを移して使うときはちゃんとスライドが表示されるか確認する必要があります。
  • 最後によく「ありがとうございました」とだけ書いたスライドを表示することがありますが、これも無駄です。研究の審査をしているのですから、感謝の言葉を書かれたスライドを見ても何の役にも立ちません。最後は結論やまとめのスライドを表示したまま、口頭で謝意を述べればよろしい。そうすれば聞き手はまとめのスライドを見ながら発表の内容を頭のなかで反芻することが出来ます。

他に一般的な学術研究の注意事項は当然ですが守りましょうね。

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さて、最後は発表の練習です。

練習しましょう。何度でも。口頭発表のアドバイスはこれにつきます。本稿でもいろいろ注意事項を書きますが、あなたがよほどのプレゼンの達人でもない限り、結局、練習しなければ本番でできません。

プレゼンの名人としてよくあげられる故スティーブ・ジョブスは練習の鬼だったそうですよ。あのジョブスでさえ練習をするのですから、いわんや我々雑魚においてはもう練習しまくるしかないでしょう。

特に私が伝えたい具体的なポイントは二つだけです。前を見ること、ゆっくり話すこと。

 

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よくスライドのほう(たいていは発表者の後方ですね)を向いてスライドを音読する発表者がいますが、これアホです

だってスライドに書いてあることそのまま読み上げるなら喋る必要ないでしょう。スライドだけ黙って表示して読んでもらえばよい。それに聴衆と発表者の間でコミュニケーションがとれません。

聴衆は自分に向かって語りかけられていると感じられなくなります。最低です。前を向いて堂々と立ちましょう。

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聞き手に対して開いた姿勢、というのが大事です。顔を上げましょう。原稿は記憶し、手元のパソコンのモニタを見つめず、聞き手の顔を見て聞き手の一人一人に対して語り掛けましょう。それから可能であれば演台の後ろに立たず、前に出たほうがよいです。聴衆との距離が近づいて「語りかけられている」感が増します。

 

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服装はその場に相応しいものを。

修論発表の場で相応しい服装とは、私の経験した範囲ではスーツにネクタイ着用ですが、これは分野や大学によって違うかもしれませんね。ともあれ、「この場にふさわしいと審査の先生が思っている服装」であることが必要です。卒修論プレゼンテーションの目的は審査の先生に合格をもらうことで、その目的から判断する限り、相応しいと思われる服装に反してまであなたの個性の表現する意味はありません。

表情は明るく。やばいと思っているかもしれませんが余裕ありげな演技をしましょう。あまりにも胸を張る必要はありませんが猫背はよくないでしょうね。

腕や手も使い方によって強調(例えば両腕を広げる)とか指示(スライドの方向を指さす)のになかなか有効ですが、少々テクニックの細部に走りすぎるのでここでは細かくは書きません。

 

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次は喋り。ゆっくり話すこと。と、書きましたが私はこれ苦手でいつも苦労してまた反省しています。

スピードは小学生に言い含めるくらいのスピードで喋ってちょうどいいくらいです。その速さで喋って時間内に収まる原稿をつくりましょう。必要な単語だけに絞れば何も考えずに喋ったときに比べて半分くらいの分量になりますよ。聞き手にとって大事なことは何かを考え、それ以外は思い切ってばっさり切り落とすこと。

 

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聞き手にとっての大事なこと、をもう少し考えてみましょう。

まず、必要な用語は説明すること。そして必要ない用語は一切出さないこと。口頭にもスライドにも、です。

また、強調したいところは少し間をとって「おや」と思わせたあとにゆっくり、大きめにしゃべると強く印象に残りますね。

例えば。

「これが日本での結果です。

ここで特徴的なのは、、、、

男 性 が 女 性 よ り 少 な い、 

ということです」

みたいな感じです。

 

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で、とにもかくにも練習です。

じっくり作業できるスライド作成と違って、口頭発表はライブの一発勝負、始まったら終わりまで駆け抜けるしかありません。戻ってやり直しは出来ませんから、徹底的に練習することです。

まず基本として所要時間は絶対に守ること。発表が所要時間内に終わらなかったとき、私なら「この発表者はこの発表に対して真剣でない」という印象を受けます。ちゃんと準備してないってことですからね。

台本もしっかり暗記しておきましょう。文字列で暗記するだけではなく、「ここで何が言いたいのか」を自分の中ではっきりさせることが大事です。そうすればよくある「えーと」の連発をしないですみます。

そして最強の練習方法が録画・録音。自分の発表見るの、私は大嫌いですが(笑)、それでも上達に繋がるのでやったほうがいいということは確かです。自分では気づかないうちに「えーと」をたくさん言ってたり、下を向いてしまっていたり、思ったより喋りが速かったり、よくあるものです。

 

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その他の注意点です。

スクリーンではなく、自分の話に注意を向けてほしいときにどうするか。これはやや上級の技術かもしれませんが、まず、歩く。演台を離れて歩きます。スクリーンの前を横切るように歩くか、あるいは聴衆の中に入っていくようにします。これで聴衆の視界では発表者が目立つようになり、自分の話に意識をひきつけることが出来ます。

もうひとつはスクリーンのコンテンツを消して、真っ白か真っ黒にしてしまう。Microsoft PowerPointの場合、映写中にキーボードのWを押すと画面が真っ白に、Bを押すと真っ黒になります。戻るときはもういちど同じキーを押すかEscで戻ります。

つぎ。あるスライドのところで話すことを言い終わった後、次のスライドに行く前に軽く予告をする。方法が終わったところで、「それでは結果を見てみましょう」と言ってから結果のスライドに行く、という方法。これをすると聴衆に今どこにいるかを伝える「ガイド」の効果が増します。

 

そして最後が質疑。

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そもそも質疑応答でちゃんと答えるためには自分の研究について、

・関連する知識を十分に持っていて、

・何をしているのかを詳細まで把握していて、

・そのひとつひとつの意義や意味を考えてある

必要があります。

それを前提として。

まず「訊かれたことに答える」ことです。

そんなんあたりまえやろ、と思うでしょ。それが全然当たり前じゃないんですよ。みんな普通に訊かれたことじゃないこと答えてます。まじで。何が、で訊かれたら「何」を答えましょう。「~なのか」と訊かれたら答えはYesかNoです。

質問の意味が分からなかったなら、自分の理解で相手の質問を復唱して、「~というご質問でよろしかったでしょうか」とでも確認するべきです。分からないままテキトーに答えるよりはずっといいいです。

次に簡潔に答えること。なるべく短く。

「~は何か」と訊かれたら、「~はほにゃらです」とだけ答える。理由とかほにゃらの説明とかは訊かれてないので言ってはいけません。無駄です。突っ込まれそうなところをあらかじめ考えて想定問答集をつくっておくとなおよいですね。

さて、これで卒修論プレゼンテーションの技術的なことはおしまいです。

 

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おわりに。

本番は楽観的にいきましょう。

自信をもって堂々と発表すること。そしてそのために、まずもって自信をもって臨める準備が必要なわけで、そのために私はこのような資料をつくりました。しっかり準備、練習していれば本番は楽しむことが出来ます。

前夜はよく寝ましょう。本番前に体調を整えることは必須とさえ言えます。スポーツ選手が試合前夜に徹夜しないですよね。え、運動は違うって?ではあなたが外交官だとして、隣国との領土問題の交渉に臨むとき、徹夜・寝不足で疲労困憊の状態であたりますか?少なくとも私はそういうコンディションの人にわが国の外交交渉を任せたくはありません。

楽観的になる究極の方法は「たかが卒修論」です。この発表会で上手に発表が出来なかったところで、最悪卒業・修了認定が得られなかったところで、あなたの人生がめちゃくちゃになるわけでは(たいていは)ありません。5年もすればネタになるでしょうし、20年後には思い出すことさえほとんどなくなっているでしょう。

誰かの命がかかっているような緊迫した状況とは違いますから、「たかが卒修論、失敗したところでどうということはない」と開き直って明るい気分で演壇に立ちましょうね。

 

それでは、みなさんの健闘を祈っています。

 

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参考資料

Chase Your Dream! (京都大学情報学研究科教授 加納学先生のblog)

卒業論文修士論文発表会でのプレゼン方法

http://blog.chase-dream.com/2011/02/22/1191

卒業論文修士論文など発表スライドの作り方

http://blog.chase-dream.com/2011/02/15/1187

 

カーマイン・ガロ

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則

 

ジーン・ゼラズニー

マッキンゼー流 プレゼンテーションの技術

 

D.E. ウォルターズ

アカデミック・プレゼンテーション